
雨の森で出会った謙虚な花
春の雨に濡れる森を、キンランの生育状況を確かめて歩いていると、思いがけず心を奪われる光景に出会いました。歩道の外、竹込みの奥にひっそりと、それでいて確かな存在感を放ちながら咲いていたのは、楚々とした花色が印象的なエビネの群生でした。
控えめながらもどこか品のあるその姿は、森の中に凛とした空気を添えていました。エビネは蘭の仲間で、細く優美な茎の先に小ぶりな花をいくつも咲かせます。多くの花はうつむくように下垂れていて、まるで静かにお辞儀をしているかのよう。
その姿からか、エビネの花言葉は「謙虚」とされています。主張しすぎず、それでいて確かにそこに咲いている…そんなエビネの在り方は、私たちに静かな気づきを与えてくれるようです。
自然の中でふと立ち止まり、こうした出会いを味わえることは何よりの贅沢。雨に濡れた森の匂いと、足元に広がるエビネの花の気配が、今も心にやさしく残っています。